FIGURE 100
2016.06.02【Figure.13】
知的好奇心をくすぐる驚きの伝統工法、“曳家工事”とは?
先日ご紹介した、音もなく超高層ビルが消えゆく「旧グランドプリンスホテル赤坂」の解体工法、「テコレップシステム」も衝撃的でしたが、その裏で「赤プリ旧館」の工事にも、驚くようなドラマがあったのです。
話題となったのは、「洋館が動いた!」という、何ともショッキングなニュース。地上の大部分を緑化する計画により、旧館の地下に駐車場などの躯体を構築する必要が発生。そのため、旧館をいったん移動させて仮置きし、構築終了後にほぼ元の位置まで戻すという、一大工事となったのです。その移動距離は、実に44m! じわりじわりと毎秒0.5〜1mmの速さで8日間という日数をかけて動かしたといいます。
建物の総重量、5000tというこの巨大な洋館を、はたしてどのように動かしたのか? その答えとなるのが“曳家工事”と呼ばれるものでした。国の重要文化財に指定されている、あの弘前城の天守閣移動プロジェクトにも使用された工法で、建物を解体せずにそのまま移動させることができるため、希少性のある建築に適用されることが多いのだとか。その歴史は500年以上という、伝統的な工法です。油圧式の推進ジャッキで総重量の3〜4%に相当する200t弱の水平力を加えて動かし、ジャッキによる押し出し作業を1日に17〜20回繰り返すことで、1日あたり6mずつ移動させたといいます。「見ていても動いていることが分からないくらいのゆっくりとしたスピードです。ジャッキの油圧や建物の変位量を一元管理して、不具合が起こらないよう慎重に作業しました」と、というのは請け負った大成建設の小倉学作業所長による談。
東京都指定有形文化財でもある「赤プリ旧館」。建物の移動中は、30人ほどの作業員を床下や周囲に配置するなど、手厚いサポートのもと、無事に「赤坂プリンス クラシックハウス」として生まれ変わったのです。